★「光速のフラッシュ」一点特化型ヒーローが生まれた歴史的背景とは?

もうすぐDC映画超大作『ザ・フラッシュ』が公開されます。タイトル通り、フラッシュというヒーローが活躍するわけですが、このヒーローがコミックにもたらした影響とは?ズバリ、一点特化とマルチバースです。
杉山すぴ豊 2023.05.25
誰でも

フラッシュは一点特化型ヒーロー

フラッシュはアメコミ界が誇る超高速ヒーロー。スーパースピードで動くことができます。

細かい説明ははしょりますが、彼はスピードフォースと呼ばれるエネルギー体とアクセスすることでこのような力を発揮できるのです。スーパースピードで動いている時は、まわりのものがすべてスローモーションのように見えるため弾丸をよけたりできる。またある場所から猛スピードで地球を一周をしてその加速度を加えてパンチをお見舞いしたり。さらに自分自身を構成する原子を超振動状態にして、物体の原子間をすり抜ける。(要は壁抜けとか出来る)と様々な技を見せてくれるのですが、基本、彼のスーパーパワーは「速い」

という一点特化型です。なぜこのようなヒーローが生まれたのでしょうか?

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アメコミは1938年にスーパーマンという超人をデビューさせスーパーヒーローというジャンルが生まれました。当然、このスーパーマン人気にあやかったヒーローが次々と登場するわけですが、スーパーマンがオールマイティすぎて彼を超えられる主人公を中々生みだせなかったのです。スーパーマンは不死身で、怪力で、しかも空を飛べるわけですからね。

アメコミというのはいきなり史上最高の完璧なヒーローを作ってしまったわけです。

そこでその後生まれてくるヒーローたちは、このスーパーマンとの差別化を図ることでキャラ立ちをはかる必要があった。スーパーマンが宇宙人だから普通の人間のバットマン。スーパーマンが男だから女のワンダーウーマン。スーパーマンが空を舞うから海を行くアクアマン。そしてスーパーマンが高速で飛べるなら高速で走るフラッシュ、というわけです。

すべてを持っているスーパーマンに対し、速さだけにフォーカスしたところがポイントです。フラッシュの誕生は1940年のことでした。最初のフラッシュはジェイ・ギャリックという人物でした。

フラッシュは襲名ヒーロー、そしてマルチバースをアメコミにもたらした

DCは戦前(第二次世界大戦前)にデビューさせたヒーローたちを新設定で50年代に再デビューさせます。その先駆けとなったのがフラッシュでした。1956年のことです。

ここで僕らの知っているフラッシュがデビューします。警察で科学捜査官(科捜研)として働いていたバリー・アレンは職場での落雷事故でスーパースピードを操る能力を身に付けます。ラボにあった大量の薬品と雷=電撃を同時に体に浴びたことで特異な体質になったのです。フラッシュならではの赤いコスチュームもこのバリー版からです。このフラッシュのリニューアルが成功し、DCは戦前のヒーローたちを新設定で再デビューさせます。

コミックにおいて“襲名”を最初にしたヒーローかもしれません。そして1961年、このフラッシュは画期的なアイデアをアメコミにもたらします。それが“2つの世界のフラッシュ”というエピソードでした。

これはバリーが先代フラッシュのジェイ・ギャリックと出会うというものでした。実はバリーの世界ではジェイ・ギャリック版のフラッシュはリアルに存在せず、コミックの中のヒーローという設定だったのです。バリーが時空を超え、自分の世界ではフィクションだったフラッシュと実際会ってしまう。後にバリーたちが生きている世界はアース1と呼ばれる世界であり、ジェイ・ギャリックはアース1とパラレルワールドの関係にあるアース2のヒーローだったということがわかります。そうアメコミにおいてマルチバースが描かれた最初のエピソードだったのです。

2015年にフラッシュ生誕75周年を記念して作られたDC公式のトリビュート動画がこちらです。

クライムファイターからSFヒーローへ

フラッシュことバリーはセントラル・シティの科捜研という設定からもわかる通り、その能力を使って誰よりも早く犯罪現場に駆け付け事件を解決する。そうどちらかというと街の犯罪と戦う、クライムファイターとよばれるヒーローでした。その一方で超高速=光速を超えて時空をかけぬけられる、ということでマルチバースを行き来できるヒーローでもあるわけです。この設定が加わることによりSFヒーローとしての面白みも出てきました。そのフラッシュの活躍を描いたコミックが『フラッシュ・ポイント』です。

この作品が映画『ザ・フラッシュ』の元ネタになっています。

このコミック版ではバリーがやはり時空を遡り過去を変えてしまったこと=殺される母親を救ってしまうことで、違う現実が生まれてしまいます。その世界ではなんとワンダーウーマン率いるアマゾネスとアクアマンが統治するアトランティスの全面大戦争が始まろうとして世界の危機。

そしてこの世界におけるバットマンは両親を殺されたブルース・ウェインではなく、息子ブルース・ウェインを犯罪で失った父トーマス・ウェインがその正体なのです。壮大なSFストーリーですが、母親を救うためとはいえ世界を変えてしまったことに苦悩するバリーに対し、バットマンが「僕が君の立場だったら同じことをしたと思う」と。バットマンもまた理不尽な暴力で最愛の両親を失った人。だからバリーを責めないんです。このくだりは本当に泣かせます。

『フラッシュ・ポイント』は僕にとって最も好きなアメコミの1つです。なお映画は大部設定を変えているので、コミックの内容を知っていてもネタバレになりませんので、ご安心を。

ちなみにフラッシュはTVドラマ・シリーズも有名です。2度ドラマ化されています。特にグラント・ガスティンがバリーを演じるTVドラマ版は本当に傑作。(いま最終シーズンのシーズン9がアメリカで放送中)これについてはいくつかまたご紹介したいと思います。

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