★すぴ豊のアメコミ名画座 『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』』
もあるでしょう。
でも世間の評価や周りがどう言おうと、自分はこの作品大好きというのもありますよね?
というわけで僕が好きな、隠れた(?)アメコミ映画の名作を取り上げていきます。
第二回目は『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』
バットマン映画シリーズを一回終わらせた問題作
6月16日に公開されるDC映画超大作『ザ・フラッシュ』にマイケル・キートン演じるブルース・ウェイン/バットマンがマルチバース設定を活かして再登場することが話題です。
マイケル・キートンは1989年公開のティム・バートン監督版『バットマン』で主役をつとめました。この89年版の成功を機にバットマン映画が作られます。この頃はマーベルがまだ本格的にアメコミ映画に参入していません。また80年代に作られたスーパーマン映画シリーズが一旦終わっているので、90年代を代表するアメコミ映画シリーズといえばこのバットマン映画となります。
計4作作られました。『バットマン』『バットマン・リターンズ』(92)『バットマン フォーエヴァー』(95)『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(97)と続きます。
しかしこの4作、前半2作と後半2作は全く違う映画と言っても過言ではありません。
前半2作はティム・バートン監督×マイケル・キートン出演×ダニー・エルフマン作曲と同じトーン&マナーで続き物なのですが、後半2作の監督はジョエル・シュマッカ―×エリオット・ゴールデンサール作曲とガラっと雰囲気が変わるのです。さらにブルース・ウェイン/バットマン役も「フォーエヴァー」ではヴァル・キルマー、『Mr.フリーズの逆襲』ではジョージ・クルーニーが演じています。
この路線変更になにがあったのか?『バットマン・リターンズ』はいい映画だったんですが、前作以上にティム・バートン色が強くですぎて、ダーク・ファンタジーになってしまった。
夏映画なのに晴れているシーンがほとんどないとか、街中の子ども(長男)を怪奇なサーカス団がさらっちゃうとか。大手の外食チェーンがファミリー向けヒーロー映画と期待してタイアップしたら暗すぎると頭を抱えたとか。
そういわけで一旦暗さを押さえたヒーロー映画路線に舵をきろうとしたわけです。それが『フォーエヴァー」であり、これは興行的にも成功を納めます。そしてこの路線をさらに進化させたのが『Mr.フリーズの逆襲』なのです。
ところが今度はあまりにバカバカしいと酷評され映画は大失敗。こうしてバットマン映画路線は一旦終了となりました。次にバットマン映画が復活するのがクリストファー・ノーラン監督×クリスチャン・ベール出演の『バットマン・ビギンズ』となります。要はダークナイト3部作の始まりですね。
DC展 2021より すぴ豊撮影
この記事の続きは、メールアドレスを登録いただくと無料でご覧いただけます。「アメコミ映画わいわい情報局」は、杉山すぴ豊がアメコミに関する最新情報や裏話、往年の名作について発信するニュースレターです。作品を横断する形でコアな知識と独自の解釈を楽しめる記事をお届けしていきます。
陰と陽をくりかえすバットマン映画・・陽としてのバットマン映画
といいながらも僕はこの映画とても好きなんです。本作は明るく楽しいヒーロー映画としてのバットマンにトライした作品であるわけです。
バットマンというのは、そもそも闇・夜が似合うダークヒーローではあるんですが、その人気を決定づけたのは60年代のTVドラマ・シリーズです。出演のアダム・ウエストの名をとってアダム・ウエスト版バットマンと言われることもあります。
このシリーズの特長はバットマン&ロビンとヴィランたちの戦いをポップでキッチュな世界観の中で描くというものでした。画面にPOW!とかコミックの吹き出しが現れたりします。本作はコメディではありません。極めてまじめに演じているわけですが、それを視聴者がツッコミながら楽しむという構造です。
このドラマ・シリーズは確かにバットマン人気を広げました。その一方でコミックのクールなバットマンを愛していたファンにとっては決して評判のいいシリーズではなかったそうです。この後バットマンのコミックは試行錯誤をくりかえしますが、1986年にフランク・ミラーによる『ダークナイト・リターンズ』というグラフィック・ノベルが出版され、ダーク・ヒーローとしてのバットマン像が再び脚光をあびるようになります。
続いてフランク・ミラーは『バットマン:イヤーワン』を1987年に発表。89年版の映画はこうしたバットマンのテイストを取り入れた作品だったのです。その一方で60年代のドラマ・シリーズのあのテイストが好きというファン層もいる。
『Mr.フリーズの逆襲』はまさにそうしたTV版が持っている楽しいバットマンを再現した作品だったのです。僕自身、TVドラマ版も好きだったので(そもそもバットマンというヒーローを知ったのはこのドラマだったので)『Mr.フリーズの逆襲』も受け入れられました。
60年代のドラマ版のバットマンは「陽」
→その反動で89年、92年のティム・バートン版は「陰」
→しかしさらにその反発で『フォーエヴァー」『Mr.フリーズの逆襲』は「陽」
→その反省からダークナイト3部作は「陰」
→けれど他のヒーローと絡ませるからもうちょっとヒーローっぽさを出したいとベン・アフレックのバットマンは「陽」
→でもバットマンの暗さは捨てがたいからロバート・パティンソンの『ザ・バットマン』は「陰」です。
要はと「陰」と「陽」をくりかえしています。
ただこの幅の広さもバットマンというキャラの魅力ですよね。
最もブルース・ウェインのイメージに近いジョージ・クルーニー
僕がこの映画を好きな理由はジョージ・クルーニーです。
というのも自分がイメージするブルース・ウェイン像に一番近いんですね。
億万長者でプレイボーイという“表”の顔。これにピッタリでした。
そしてシュワちゃんやユマ・サーマンといった名優たちが派手派手ヴィランとして暴れまわるのも楽しかった。
シルバーをベースとして氷結仕様のバットビークルもかっこいい。
ヒーロー大活劇として十分エンタテインしてくれました。
そしてこの映画、バットマンがMr.フリーズを退治するのではなく、最後の最後で彼を救済するのです。ここの後味もよかった。
残念ながらジョージ・クルーニー自身は、本作を失敗作と言っているようですが、ジョージ版ブルース・ウェインを僕は支持します。
なお最近公開されたジョージ・クルーニー出演のラブコメ『チケット・トゥ・パラダイス』のエンド・クレジットでバットマンをいじったギャグ・シーンがでてきます。
本人なりにバットマンと“気持ちの和解”をしているのなら、いつかなんらかの形でジョージ・クルーニー版ブルース・ウェインに復活して欲しいですね。
話はかわりますが庵野秀明さんの『シン・仮面ライダー』賛否両論ですよね。
僕は“賛”です。
あの映画も、TV版『仮面ライダー』の雰囲気やお約束を、あえて蘇らせようとしています。
庵野監督がグラフィック・ノベルのバットマンの素材を使って『シン・ゴジラ』的なアプローチを試みたら、『ダークナイト』、TVドラマ版「バットマン」という素材を使って『シン・仮面ライダー』的なアプローチを試みたら、『Mr.フリーズの逆襲』みたいになるのではないか?
いかがだったでしょうか?
冒頭でも言いましたが、決してバットマニアの間で評価の高い作品ではありません。
けれど本作のエンタテイメント性、ヒーロー活劇としてのバットマンとしては本当に楽しい。こういうバットマンも「あり」だと思います。
すでに登録済みの方は こちら