★すぴ豊のアメコミ名画座 『スパイダーマン』

これだけアメコミ・ヒーロー映画が多いと、傑作もあれば世間の評価や周りがどう言おうと、自分はこの作品大好きというのもありますよね?
さて今回は誰もが認める傑作『スパイダーマン』(2002)について取り上げます。この映画のレビューというより、公開当時の日本での反響についてふりかえってみます。
杉山すぴ豊 2023.05.27
誰でも

実は日本では期待されていなかった『スパイダーマン』

サム・ライミ監督 × トビー・マグワイヤ出演の『スパイダーマン』(2002)。いまから21年前に公開されたこの映画の大成功・大ヒットが今日(こんにち)のアメコミ・ヒーロー映画ブームの大いなるきっかけになったと言っても過言ではありません。しかしリアルタイムで本作の公開に立ち合った自分としては、この映画の日本での大ヒットは予想外のものでした。その時の思い出をここに書きます。

まず『スパイダーマン』の日本公開は、全米公開の5月3日(金)に遅れること5月11日(土)でした。当時、日本では映画公開の初日は土曜日というパターンが多かったのです。

この公開日からして『スパイダーマン』に対してあまり期待していなかったことがわかります。というのもヒットを狙う自信作ならゴールデン・ウィーク(GW)公開か夏休みの時期に公開するのがセオリーでした。

つまり『スパイダーマン』はGWや夏休み興行の目玉になるとは思われてなかったんです。さらにアメリカでは大ヒットしていた1989年からの『バットマン』路線や2000年の「X-メン」(日本では1作目のみ“メン”表記)が日本ではそこそこのヒットだったので、アメコミ・ヒーロー物は日本でウケない、というジンクスもあった。また後で書きますが、さらにこの時の日本は“映画ではない、あるコンテンツの熱気”につつまれていて映画そのものが話題になる感じでもありませんでした。

とはいえ映画会社さんは『スパイダーマン』に華を持たせようと、当時の映画館の中で最も人気と格があった日劇(東京・有楽町マリオンの中にあった映画館)をメイン館にもってきます。日劇でかかる映画は大作というイメージもあったので。

そうした中、蓋をあけた『スパイダーマン』ですが、当時日劇の初日に駆け付けた僕は愕然としました。全然、満員ではない。むしろ邦画を公開する日劇東宝で同じ日に初日を迎えた『ナースのお仕事 ザ・ムービー』(観月ありささん出演のコメディ。TVドラマの劇場版)の方が満席。観月ありささんにスパイダーマンが負けた!とうちのめされました(笑)

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ところが日本でも『スパイダーマン』は大ヒットとなった!

、、と思っていたら、映画会社の人が『スパイダーマン』が大ヒットしている、との嬉しい報告をしてくれました。え!?なぜか?この時、日本ではシネコンというものが普及し始めていた。つまりわざわざ有楽町とかに遠出しなくても気軽に地元の映画館に観に行ける。

さらにファミリーで行きやすい。そう各地のシネコンで『スパイダーマン』が大入りになったんですね。ヒーロー物というのもファミリー層に受けたのかもしれません。また東映スパイダーマンをTVで子どもの頃に見て、大人になった彼らが子どもを連れてくるという効果もありました。実際、この映画の存在を知って、え?スパイダーマンってアメリカのヒーローだったの?と知った方も多かったそうです。

さらに追い風になったのはアメリカでのニュース。本作はアメリカで大ヒットなり、史上初めて公開3日間で興行収入1億ドル突破、といういまだかつてない驚異の(それこそアメージングな)記録を打ち立てたのです。要は社会現象となっている映画ということで日本のメディアも大きくとりあげたのですね。こうした好条件が重なり、最終的に日本でも興行収入75億円を超えるメガ・ヒットとなりました。

あの時感じた、好きなものは人によって違う。だからお互いをリスペクト

先ほど当時の日本は“映画ではない、あるコンテンツの熱気”にあふれていた、と書きましたが、ちょうど日韓ワールドカップ・サッカーの年でした。いたるところでサッカー日本代表のユニフォームを着たサポーターたちがいました。サッカー一色だったんですね。こうした中で『スパイダーマン』は75億円稼いだのです。

忘れられないのが当時の渋谷のスクランブル交差点での風景。僕は渋谷の映画館で『スパイダーマン』を観た帰りでしたが、そこにサッカーのサポーターたちもいた。さらにモーニング娘。さんのコンサートが近くであったらしくそのファンたちもいた。アメコミ、アイドル、サッカー好きがスクランブル交差点で交じり合ったんですね。で、どの人もすごく嬉しそうな顔をしていた。

好きなもの、応援したいものがあるというのは人をこんなにも幸せにするんだ、と実感しました。「好きな」ものは一人一人違うかもしれない。されどそこにかける「好き!」という気持ち、その熱量は皆同じなんですね。サッカー好き、アイドル好きにエールを送りながらスパイダーマン好きをもっと増やそうと心に誓ったスクランブル交差点でした。

この『スパイダーマン』がきっかけで僕はライターとしての道を進み始めます。杉山すぴ豊というライターを作ったのはスパイダーマンなのです。

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