★アメコミ映画プレビュー:アントマン&ワスプ クアントマニア
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観客からは大絶賛!
本作については賛否両論があって、アメリカの有名な批評サイト、ロッテン・トマトでは批評界筋から低評価をつけられました。支持率60%を下回ると“この映画はフレッシュ(新鮮さ)がないロッテン(腐っている)トマトのようだ”とディスられるわけです。
とはいえ、このサイトは批評家だけでなく観客の投票を受け付けています。観客の支持率は高く、こちらは支持率80%を超えています。こういう風に批評家と観客の“温度差”が激しいというのはホラーやアメコミ系映画のでは珍しいことではなく、例えばマイケル・ベイ監督の一連の『トランスフォーマー』映画も批評家受けは悪いが、観客に支持されているパターンでした。とはいえ一連のマーベル・シネマティック・ユニバース/MCU作品は批評家にも支持されていたのでちょっと予想外の反応でしたね。
『アントマン&ワスプ クアントマニア』はなぜ賛否両論?
まず僕はこの作品、非常に楽しめました。その一方で、この映画が支持されない理由というのもなんとなくわかります。その理由は大きく分けて2つあって
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今までのアントマン映画の楽しさとはかなりテイストが違うこと
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今後のMCUに大きな影響を与えるヴィラン=カーンの設定がわかりづらいこと
だと思います。
今までのアントマン映画はサンフランシスコを舞台に、つまり日常世界を舞台にアントマンたちが活躍するというものでした。日常世界だからこそアントマンらの大きくなったり、小さくなったりの楽しさがある。
例えば『アントマン』ではクライマックスの戦いが子供部屋でおもちゃの機関車トーマスが大迫力で迫ってきます。また『アントマン&ワスプ』はキティちゃんのペッツを巨大化させて相手に投げつけたり、キッチンが大アクションの戦場になったりと、こういう日常シーンがサイズが変わることで異世界になる、という面白さがあったんです。
それが今回は量子世界という異次元の冒険です。アベンジャーズ映画というようなイベント映画の中でアントマンが異次元の世界で活躍というのは「あり」ですが、アントマン映画の中でサンフランシスコを出てしまうことにネガティブな印象を抱くファンも多かったのでは?例えばスパイダーマンの映画でNYの街での活躍が無い=ビルからビルへのスイングがなかったら、スパイダーマンっぽさが出ません。
とはいえこの異世界=量子世界が楽しく、またアントマンならではのアクションも健在で僕はそこが気に入っているわけですが「SF(サンフランシスコ)の小粋なヒーロー物」が「SF(サイエンス・フィクション)の大規模なヒーロー戦記」になってしまったことで支持が下がったと思われます。
実は前2作はアントマン/スコット・ラング役のポール・ラッドが脚本に参加していましたが本作にはタッチせず。
かわりにジェフ・ラブネスという脚本家が参加しています。この人は、日本ではネットフリックスで配信しているSFコメディ・アニメ『リック・アンド・モーティ』の生みの親なのですが、このアニメ自体ちょっとマルチバースをこすっているカルト作なんですね。
つまりこの人を参加させるということは、マルチバース映画に仕上げるというMCU側の意志・意図がみてとれます。
カーンを理解するにはもうちょっと時間がかかる?
とはいえ今回のストーリー自体は決して複雑ではなくわかりやすい方なのですが、カーンという存在自体が複雑なんです。これは映画のせいではなく、コミックにおいてもすごくややこしいキャラで、そもそもカーンの存在を成り立たせているマルチバース自体が理解するのに時間がかかる。今までのMCUのスーパーヴィランだったサノスに比べると、とても一言では説明できない。サノスはその動機とか彼がやりたいことがハッキリしてましたがカーンはなにがしたいのかよくわからない。
これからのアベンジャーズにカーンが立ちふさがるということは示唆されていますが、この先、アベンジャーズが戦うカーンとは、「今回、アントマンたちが倒したカーン」なのか、それともクレジット・シーンの途中で出てきた「他のカーンたち(“今回のカーン”を量子世界に追放したカーンたち)」なのかもハッキリしません。
カーンについては、到底『アントマン&ワスプ クアントマニア』1作で語りつくせるものではなく今後のMCUで明らかにされていく、ということでしょう。考えてみればサノスも2012の『アベンジャーズ』のクレジット・シーンの途中でいきなり出てきて、多くの人にとって「この紫の怪人、なに?」と疑問形だったでしょうから。
そういえばもうすぐ『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』という映画が公開されます。本年度のアカデミー賞の呼び声も高い作品。MCU映画『シャン・チー/テン・リングスの伝説』に出ていたミシエル・ヨーが出演、製作は『アベンジャーズ/エンドゲーム』の監督ルッソ兄弟というわけでMCU好きにもなじみの深いキャスト・スタッフの映画。実はこれマルチバースがテーマで、様々なバースのミシエル・ヨーが出てきます。
この作品も同時に観るとカーンってこういうこと?みたいなことがわかります。(いやかえって混乱するかも)
*なおエンド・クレジットの解説&カーンについては、僕が他の媒体さんで書いたこの記事もご参照ください。
なぜキャシーはライムを欲しがったのか?
本作でヒーローとしてデビューするキャシー・ラング(演じているのはキャスリン・ニュートン。『名探偵ピカチュウ』のヒロイン、傑作ホラー映画『ザ・スイッチ』の主人公です)彼女の存在が本作の魅力にも貢献しています。